「伝統工芸品は日用品。使わないと意味がない」
清秀は、そう言い切る。
伝統工芸品とは、芸術品のように鑑賞するためのものではない。より良い生活を楽しむためのものだ。高価だから、壊すのが怖いからと、しまい込んでしまうのは、かえってもったいない。日常のなかで当たり前に使っていくのが本来だ、と考えている。
ただ飲むだけのためなら、プラスチックのコップでも十分に用は足りる。しかし、プラスチックのコップで飲むお酒と、繊細なグラスで飲むお酒、そのふたつでは味わいが異なるということは、誰しも経験したことがあるだろう。
味覚が、見えるもの、聞こえるもの、肌で感じるものなどによって左右されることは、科学的な実験でも証明されている。目を喜ばせる美しいデザインや色合い、手触りや唇に触れる感触、そのすべてが、味わいを作り上げる要素となる。
だからこそ、自分が本当に気に入った良いものを生活に取り入れて、日々を心地良く過ごしてほしい。職人の彼には、そんな強い思いがある。
清秀が江戸切子に出会ったのは、中学2年生の時。デパートの催事で実演されていた江戸切子が面白くて、毎日のように見に行った。漠然と、職人になりたいと思っていた彼は「うちでやるか」という冗談交じりの師匠の言葉を真に受けて、高校を卒業すると同時に弟子入りした。
最初に覚えたのは“手磨き”だった。カッティングされた切子の面を、“目と手”で丁寧に磨いていく、手間も時間もかかる作業。かつて江戸切子に魅せられた少年は、技術をひとつひとつ身につけて、十数年の修行の後に独立し、工房と店とを構えた。
いま、清秀が出会う人の3割は、江戸切子のことを知らないという。そんな人に届けるために、彼は熟練した手磨きの技術を活かせる、新たなデザインを模索している。
より多くの人が江戸切子をはじめとする伝統工芸品を知り、親しみ、そしてそれらを普段使いすることで、日常がより良く変わっていく。
清秀が見つめているのは、そんな未来なのかもしれない。
キヨヒデガラス工房
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清水 秀高
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