創業後、約120年の歴史を誇り、絹織物である『多摩織』のすべての技術を継承する東京・八王子の澤井織物工場では、アパレル企業との仕事が全体の80%を占める。
バブルがはじけ、着物業界が斜陽化した90年代に、楊柳(ようりゅう)という細かな縦じわのある帯揚げがストールとして使われているのを見た澤井は、それをヒントにしわの風合いのあるストールを制作し、アパレル業界に参入した。いまや取引先には、誰もが名を知る錚々たるブランドが並ぶ。
そんな澤井織物工場には、三つの特徴がある。
一つめは、いわゆる大量生産の工業製品とは一線を画したモノづくりをしていることだ。ひと手間、ふた手間かかる工程を含むことが多く、ロット(同じ条件で作る製品の最小単位)は、平均して50~100枚程度。多くても500枚、少ない時には10~20枚という注文も受ける。かつて海外のブランドから4000~5000枚という一桁違うロットで注文を受けたときには、流れるように物を作らねばならず、あまり楽しくなかったと澤井は笑う。
二つめは、取引先と対等な関係を結んでいることだ。他ではできない仕事をしているから、澤井からやりたいことや価格を提案し、リードできる関係が築けている。
そして三つめは、まったく異なる業界からの相談が数多くあることだ。洋服に触れることでスマートフォンを操作できるようにするというGoogleのプロジェクトに参画し、その仕事がメディアに掲載されたことが、知名度を上げるきっかけとなった。
澤井は、大島紬に使用されるかすり糸とカシミヤやシルクを組み合わせたストールを作ったり、有松絞りの職人に自社開発のハンカチーフを絞ってもらったりなど、他の伝統工芸の素材や技術をかけ合わせるさまざまな試みを行っている。
さらには、建築資材の会社からパーテーションの制作依頼があったり、洗剤の大手メーカーから声がかかったり、製作している銅線の手織物をきっかけにモーターの会社から問い合わせを受けたりと、異業種からの相談が絶えることがない。犯人の着衣を再現してほしいという捜査機関からの依頼が舞い込んだこともあるという。
リピートしてくれるアパレルの会社も増えたし、工場の若い人たちも育ってきた。これからは昔やっていたことを掘り下げながら、自分の仕事をやっていきたい。
穏やかなほほえみを浮かべながら語る澤井の目は、更なる未来の世界を見渡している。
有限会社澤井織物工場
〒192-0002 東京都八王子市高月町1181
TEL 042-691-1032
澤井 伸
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