TOKYO Teshigoto

北澤木彫刻所

27 江戸木彫刻

「静かでありながら、すごいパワーを感じる」
シアター能楽の芸術監督であり喜多流の師範でもある、能楽研究の第一人者リチャード・エマートは、北澤秀太が作る面をそう評する。

能面は、能楽師が向き合う時に気持ちが入るようにしっかりとディテールまで作りこみ、陰影をつけておく。同時に、遠い客席から見るときには強い影が大事になる。俯くと強い影がでて能面が“曇る”、そのための彫刻が甘いと、どんなに細かいところに凝っても、表情が出ない。

とりわけ新作の創作英語能は、能楽堂ではなく、劇場やホールのような広い空間で上演されることが多いため、舞台道具であると意識しながら彫る。

伝統的な寺社の飾りものも、鑿(のみ)を立てて彫り起こすのが基本だ。
西洋彫刻の世界にはないその技法は、海外に行くとユニークだと言われる。例えば獅子の巻き毛を柔らかな線でカールさせても、寺社の飾り物のように高いところに置くと見えなくなる。だから強い影が出るように、がつんと鑿を突き立てる。

神仏木彫士であり面打ち能面師でもある北澤は、寺社の飾り物には風雨にさらされても美しい木肌を保つ硬くて重い欅(けやき)を、能面には軽くて塗料との相性がよい檜などを使う。欅を彫ると刃ががたがたになり、檜を彫る前に砥がねばならなくなる。同じ樹種を使う場合よりも頻繁に砥ぐため、20年、30年と使ううちに、鑿の刃が根元まで短くなるという。

250本ほどもあるさまざまな刃幅と形の鑿は、制作物や工程にあわせて使い分ける。鑿の刃幅と曲面の具合は頭に入っているから、手に触れる柄の感覚だけで瞬時に必要な鑿を選びだし、制作物から片時も目を離さずに集中して彫り続ける。

富岡八幡宮の神輿や成田山新勝寺の獅子頭、故石原裕次郎氏の仏壇を製作した北澤一京の長男として生まれ、鑿を遊び道具に育ったという北澤は、大学卒業後に父の下で修業をした後に面打ち師の伊藤通彦師に弟子入りし、狂言の野村万蔵家に面をおさめる面打ち師として実力を認められた。

木彫も面打ちも塗りもできるから、江戸時代の木彫刻の修復などの様々な仕事が舞い込んでくる。美術館や大学などでの講演、製作実演、ワークショップなど世界各国からのオファーも絶えることがない。

とりわけ舞台人との緊張感のあるやり取りは、エネルギーが高くとても楽しい。
そう語る職人の顔が、ふと柔らかくほころんだ。

北澤木彫刻所
〒125-0032 東京都葛飾区水元4-11-22
TEL 03-3609-4191
北澤 秀太

工房見学
なし
工房体験
なし

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