絹の小さな生地を折りたたみ、寄せ集めて形をつくる“つまみ”が、ちょっとしたブームだ。
江戸つまみ簪(かんざし)職人の石田が開く体験教室は、いつも盛況で、毎年同じ初心者向けの内容だが、またやりたいと、7~8年ほど通った方もいるという。
親方について修行し、仕事を覚えたというつまみ職人は、現在、関東と関西をあわせて10人ほど。作る工程は同じだが、出来上がったものの感じは西と東で異なってくる。関東では、七五三向けのものが多いのに対し、関西では、舞妓さん向けや文楽人形、芝居用のものが専門の方もいる。
学校を出てすぐに父親の跡を継いだ石田は、つまみ簪を作り始めて、もうすぐ40年。これしかできないからずっと続けてきたと謙虚に語る。共にはたらく弟も、他の仕事を経てから職人になり、もう20年ほどが経つ。
「着物にあわせたいから」「イベントやセレモニーでつけたいから」というオーダーが多い。時には「京都のいつものお店では他と同じになる、人とは違うものが欲しい」と、舞妓さんから頼まれることもある。稀に、洋装にあわせたいという方があらわれたりもする。
どんなものが欲しいのかを尋ねながら、頭の中に形が浮かんだら、引き受ける。イメージができれば、作り方までのすべてがつながる、と石田は言う。形が浮かべばまずは作り、違っていれば直しながら、完成させていく
デザインを考え、材料をそろえ、作り上げていく。その工程のほぼすべてをひとりで進められるのが、つまみ簪の特長。工夫次第でいろんな形ができるので、それもまた楽しいところ。
「自分で思ったものを自由に作れることが、一番の魅力。仕事だけれど、趣味みたいなところもありますね」
そう語る職人の頬が、ふと柔らかくほころんだ。
イシダ商店
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石田 毅司
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