TOKYO Teshigoto
2018.08.15

繊細な仕事を支える、無骨な道具たち。

道具を知る

工房には、たくさんの種類の金鎚が並ぶ。

金属の工芸らしく、
力強さを感じる工房。

金属を素材として、さまざまな技法で細工する工芸を「金工」と言う。金工の主な素材は、金(こがね)、銀(しろがね)、銅(あかね)、錫(あおがね)、鉄(くろがね)の「五金(ごきん)」やその合金。細工する技法は、彫金、鋳金、鍛金に大きく分けられる。今回取材した長澤製作所は、銅や真鍮を主に扱う鍛金工房。鍛金は、金属の“叩くと伸びて広がる”性質を活かして形をつくる技法だが、金属はそのままでは固いので、熱して柔らかくして何度も叩くという作業を繰り返す。長澤製作所の工房には、叩くための木槌や金鎚、焼き鈍しをするためのバーナー、金属を打ち抜くための工具が、ぎっしりと並ぶ。金属を叩く鎚音、バーナーから吹き出る炎と、工房の印象は繊細と言うよりも力強さを感じる。
長澤製作所の看板商品、銅製急須の工程を追いながら、さまざまな道具を見せていただいた。

型抜きや成型を効率的に行うために通称“蹴飛ばし(写真左)”という機械も使う。“蹴飛ばし”には、金属の型(写真右)を取り付ける。

パーツごとに、
銅板を金鋏で切る。

木の板に固定された「金鋏(かなばさみ)」で、厚みのある銅板を真円に切っていく。実演してくださった長澤製作所・三代目、長澤利久さんによれば「実際には、機械を使って抜くことが多い」工程だそうだが、固い金属を滑らかな曲線に裁断していく技術は見事。切り取った銅板は、バーナーで真っ赤になるまで熱する。銅は融解点が高いので焼き鈍(なま)しは、かなりの高温で行う。自然冷却すると表面に酸化膜ができる。これを希硫酸のプールに浸けて「酸洗い」で取り除くと、“あかがね”の綺麗な肌が表れる。

大きな「金鋏(かなばさみ)」で銅板を切る。

バーナーで焼き鈍すことで地金が柔らかくなり、鎚起しやすくなる。

叩いて形をつくり、
叩いて模様をつける。

焼き鈍して柔らかくした銅を、木槌や金鎚で叩いて急須のボディや注ぎ口の形にしていく。この作業を「鎚起(ついき)」、あるいは「絞り」という。この時に使う道具が、「木槌」、「金鎚」、「当金(あてがね)」、そして通称“蜂の巣”と呼ぶ「台」。「台」に蜂の巣状に開いた穴に、目的に応じた形の「当金」を挿して固定し、銅板を当てて「木槌」や「金鎚」で叩くことで形がつくられる。また叩くことで銅が鍛えられ、固く強くなっていく。手仕事で平面から立体になる工程は見応えはあるが、とても時間がかかる。ここも機械で行われることが多い工程だ。今回は、叩いて模様をつけるところを見せていただいた。「鎚目」と呼ぶ模様は「金鎚」の頭についている模様がつくりだす。「あられ模様」、「梨地」、「ござ目」などの模様が、急須の表面につけられていく。

一枚の平らな銅板が、鍛金の技法で、銅製急須になっていく。

頭に模様のついた「金鎚」で、美しく鎚目が刻まれていく。

さまざまな形の「当金」。叩く面の形状や広さに合わせて「当金」を選ぶ。

「当金」を“蜂の巣”と呼ばれる「台」に挿し、固定して使う。写真は注ぎ口の切り口を平らにしている作業。このような工程では「木槌」を使う。

専用の「当金」を使い、
“切れ”を生み出す。

急須の注ぎ口も、ボディと同様に銅板を「木槌」や「金鎚」を使い立体にしていく。この時に使う「当金」は注ぎ口の形に近い繊細な形をしている。「当金」の丸みのある部分や、尖ったところを巧みに使いながら、一枚の板が注ぎ口の形になっていく。長澤製作所の急須は、注いだ時の切れの良さが際立っているが、“切れの良さ”は、この注ぎ口の絶妙なカーブを繊細に叩きながら生み出す。

「当金」を使いこなして“切れ”のある注ぎ口をつくる。

注ぎ口をボディに、
ハンダづけする。

ボディ、注ぎ口などの整形、模様付けが終わるとこれをハンダで取り付ける。この様子を見せてもらったところ、溶けたハンダがボディと注ぎ口の継ぎ目にすーっと自らまわり込んだ。鍛金技法の精度、つまりボディと注ぎ口のアールがぴたりと合っていた証であり、切り口の丁寧な処理など繊細な仕事を積み重ねた証である。

“蹴飛ばし”を使って急須のボディに穴を空けていく(写真左)。空けた穴に小さなビス(写真右)を取り付ける。

ビスを取り付け、ビスの頭をわずかに外側に倒す(写真左)。倒したビスの頭に、ひっかけるように注ぎ口を取り付ける(写真右)。

一度バーナーで焼き鈍した後、塩酸をボンド替わりに塗る(写真左)。接合部をバーナーで熱しながら糸ハンダを近づけると、融けたハンダが、すーっと接合部に回り込む(写真右)。いい仕事を積み上げた証である。

無骨な道具から生まれた、
繊細な仕上がりの急須。

工房の第一印象は、力強くて無骨。道具類も、金属を加工する工房らしく力仕事に耐えるものだった。工房で聞いた音も鎚音、“蹴飛ばし”で金属を射貫く音、バーナーから吹き出る炎の音、と力強さを感じるものだった。しかし、その道具を使って生まれてきたのは、繊細な模様をまとった美しい形の急須だというのがなんとも不思議である。

長澤製作所の看板商品、銅製急須。丸形と樽型がある。

長澤製作所・三代目の長澤利久さん。 “神経質なまでに”美しさと機能を追求する。