TOKYO Teshigoto
2020.06.09

ロングセラー「江戸幸 勅使川原製作所」の「銅おろし金」の秘密とは!

世界を驚かせる職人の技

ロングセラー、必然。

食通に評判の「銅おろし金」。

日頃、どんな道具を使い、大根や生姜などの薬味をおろしているだろうか。“プラスチック製”、アルミなどの“金属製”、小皿型の“陶器製”、そして大根の鬼おろしなら“木製”を使うこともあるかもしれない。「江戸幸 勅使川原製作所」の「銅製おろし金」は、文字通り“銅製”のおろし金。銅板の表面には酸化を抑える錫が引かれている。刃先は鋭く立ち上がり、大根を向こう側に押すときも、手前側に引くときもおろせるよう、上下両方に刃が立っている。大きい刃がついた表面は大根おろし、小さい刃のついた裏面は山葵や生姜おろしなどに使う。そして「ふわふわの大根おろし」だの「クリームみたいな生姜おろし」だの、江戸幸の「銅製おろし金」の評判はすこぶる良い。

江戸時代から、ほぼ変わらぬ姿。

「銅のおろし金」の記述は、江戸時代中期に編まれた「和漢三才図会(わかんさんさいずえ)」に既にある。「薑擦(わさびおろし)」の項の挿絵を見ると末広がりのおろし金が描かれており、裏、表と両面に刃がついていたことも記されている。注釈書きには「薑擦以銅作(わさびおろしは銅を以て作る)」とある。つまり江戸幸の「銅製おろし金」は、江戸時代のものとほぼ同じ姿で、今も我々の舌をうならせていることになる。


和漢三才図会・上之巻/国会国立図書館ウェブサイトより転載

錫引き、目立ても手仕事で。

江戸幸の「銅製おろし金」は、工程のほとんどを手仕事で行う。羽子板状に銅板を型抜きする工程は、今はプレス工場に依頼しているが、以前はこの型抜きから手がけていたそうだ。羽子板状の銅板に錫を引くのも、手作業で行う。江戸幸の勅使川原製作所の工房で、錫引き、そして目立ての工程を見せていただいた。


まず銅表面の汚れを落とす。



スティック状の錫を銅板にあてると、みるみる錫が融けて広がる。


真綿を使って表面にまんべんなく錫を行き渡らせる。


余分な錫を落とすと、鏡のように綺麗な表面になる。


錫を引いた銅板。これから刃をつけていくが、うっすらと刃を立てる目印、ガイド線が見える。

目立てには、一工夫も二工夫も。

目立ては「鏨(たがね)」という道具で行う。他の職種の職人や同業者でも「鏨」は使うのだが、勅使川原氏の所有する「鏨」は、数も多いし、刃先の角度も尖っている。硬い銅板に「鏨」を打ち込み鋭い刃を立ち上げるためには、この形状と数が必要になってくるのだそうだ。そして、鋭く立ち上がった刃が、食材を磨り潰すのではなく“切る”ようにおろすから、「ふわふわの大根おろし」「クリームみたいな生姜おろし」といった食感につながっていく。勅使川原氏が銅板に「鏨」を打ち込み始めると、心地よいリズムとともに綺麗に目がつけられていく。勅使川原氏が言うには「機械のようには一直線に目は揃わないけど、これが大切」。1列目、2列目が一直線になっていては、目詰まりする。誰もが経験しているだろうが、目詰まりを掃除しながらおろしていると、大根は水っぽくなってしまう。江戸幸の「銅製おろし金」が、力を入れずにさらりとおろせて、大根が水っぽくならない理由はここにもある。


手にしているのが「鏨(たがね)」。


ここちよいリズムを響かせて、「鏨」を打ち込んでいく。



上下に刃がついているので、おろすときに無駄な力がいらない。


小さな刃を立てた裏面。


比較実験でも水分流失は僅か。

プラスチック製のおろし金と比較実験をすることで、江戸幸の「銅製おろし金」でおろした大根おろしがどのくらい「水っぽくない」のかを、秋葉原にある「東京都立食品技術センター」の「開放試験室」で実験し探ってみた。主な実験手順は、①こし器をセットし予め重さを量った大根をおろす ②こし器から採取した水分量をメスシリンダーで計測し比較。プラスチック製でおろした場合は「約23cc」の水分流失があったが、江戸幸の「銅おろし金」からは、わずか「約7cc」の水分流失という結果が得られた。


比較実験をした江戸幸の「銅おろし金」(左)と、一般的なプラスチック製のおろし金(右)。


大根をおろす際に流失した水分を採取。


メスシリンダーで流失した水分を計測。江戸幸の「銅おろし金」は「約7cc」(左)、プラスチック製のおろし器は「約23cc」(右)という結果。

■2種類の大根おろし器による水分流失量の比較

2019年12月 東京都立食品議事湯津センター開放実験室にて実験

ロングセラーの理由は、体感で。

ロングセラーを続ける江戸幸の「銅製おろし金」。材料や工程を見せていただき、また実験を通して、その魅力を探ってきた。しかし、やはり分かりやすいのは、江戸幸の「銅製おろし金」を使ってみて食べてみて、その違いを体感すること。ぜひ、ロングセラーの理由は、ご自身で確かめていただきたい。


「江戸幸 勅使川原製作所」二代目、勅使川原隆氏。