TOKYO Teshigoto
2021.03.31

お茶と工藝  ―東京のうつくしいを堪能するー

東京手仕事のルーツに迫る

コロナ禍が続く東京、先行きの見えない日々に鬱屈した気持ちになっていませんか? 緊急事態宣言、自粛期間の中で少しでも普段の生活に潤いを持たせ心穏やかに過ごすことが大切です。
長い歴史の中では、天災、戦争、疫病など様々な困難が起こってきました。しかしそんな時代の波に揉まれながらも人の「暮らし」はいつも営まれつづいています。その「暮らし」を少しでも豊にするために人は叡智を重ね新たな技術と文化を作ってきました。
積み重ねられた叡智は時代を経る中でより洗練、時には単純化され、型という様式美までも作り出すことで広まり文化を華開かせてきました。
伝統の中で作られてきた様々な美しさを通して日々の暮らしが豊かになっていく、
忘れていた「暮らしの中にある美」を感じることでどんな時代においても未来を作っていくことができるのではないでしょうか?

調和のある暮らし

例えば、茶、花、書、といった日本を代表する文化、中でも茶道は衣食住どれにもつながりまさに生活全般における美しさを追求したものと言えるでしょう。とりわけ工芸品はお道具と呼ばれ、茶道にとって切っても切れない関係です。そしてその工芸を最も美しく扱う茶道は工芸にとっての檜舞台とも言えるでしょう。
亭主のもてなし、所作、心の持ちよう、お道具として扱われる工芸品を通して
私たちは豊さのある暮らしを見つけることができるのではないでしょうか?
お茶会にはその設(しつらえ)で客人をもてなす亭主の存在があります。
今回のお茶会は東京手仕事のお茶会ということで、江戸にゆかりの深い
遠州流茶道を通して工芸のうつくしさを見ていきたいと思います。

江戸に始まる遠州流茶道

現在のご宗家は東京・神楽坂にある。創始者である小堀遠州は安土桃山時代から江戸時代初期にわたる大名、小堀遠州から始まった武家茶道を伝える流派。千利休が無駄なものを一切そぎ落とした「わび・さび」の美意識を追求したのちの、古田織部らの「へうげもの」と言われたような新たな美意識をも取り入れつつ、幅広くお茶を楽めるよう、美しさや明るさ・豊かさを加えた「綺麗さび」と呼ばれる“調和の美”を持つ茶道へと進化しました。
今回ご亭主をお勤めいただくのは遠州茶道宗家の御息女でもある小堀宗翔さん。幼き頃より伝統の美に親しんできた宗翔さんの美意識を通して手仕事の美しさに触れてみたいと思います。

お道具立て

お茶会を計画した時からすでに亭主はお客様をお迎えするため心をくだきます。
テーマや季節、お客様のお顔ぶれ、空間、いかにしてお客を迎えるかを思い亭主は道具を選定していきます。これをお道具立てと言います。
茶碗、棗(なつめ)、茶杓(ちゃしゃく)、釜、風炉(ふろ)、風炉先屏風(ふろさきびょうぶ)、水指、お軸、の数々、持ち物も懐紙に楊子(ようじ)、帛紗(ふくさ)そして着姿はお着物です。
さらに部屋に目を向ければ、床の間、畳、等々これら全て季節によっても変化があり書ききれないほどの手仕事オンパレード。もはや工芸の集大成と言っても過言ではありません。
亭主はこれらを自らの美意識を持って選びます、亭主の力量が試されるところでもあり、ある意味覚悟の準備と言ってもいいかもしれません。

千利休が茶人の心得を和歌にまとめた利休百首の中にお道具の扱い方についての有名な歌があります。
「点前には重きを軽く、軽きをば重く扱ふ味ひをしれ」この意味は、水を入れた水指、鉄でできた釜などは相当な重さがあります、しかしこれをヨッコラショと持ち上げるのではなく、重いものもそれを感じさせないよう平然と軽やかに扱いなさい、逆にお茶をすくう茶杓など軽いものはヒョイッと軽々しく持ち上げるのでなく、大切なものを扱うように扱いなさいという意味です。
また、百種の中でこうも言っています。「茶はさびて心はあつくもてなせよ道具はいつも有合にせよ。(質素でも気持ちを込めることが一番肝心、道具は持ち合わせのものであっても)」
お道具を選ぶ心持ち、扱い方ひとつに心を配る。工芸においても美しいもの、細かな素晴らしい技術を例える際、神は細部に宿るなどとと言い表すことがあります、美しさを生み出す力とはなにより「心の配りよう」なのかもしれません。

東京・神楽坂 都心の喧騒から一転、静謐な空間へ

お茶会当日

この日の朝は心配していた雨も降らず、時折眩しい太陽が降り注ぐ。
遠州茶道宗家は神楽坂の閑静な住宅地にあります。一見重厚なそれでいて柔らかさを感じる門構え、我々の歩いてきた玄関前の歩道までも水が打たれている、清涼さが漂うアスファルト、既に茶の世界は始まっています。

伝統とモダン

美しい苔に覆われた露地を進むと待合にはモダンな座布団。
広い玄関を入ると、ふんわりと芳しい香り、錫の皿に薫かれた香が空間を柔らかく清浄な空気で包み込みます。
横には、着物についた埃を落とすために使う千鳥の形をしたモダンな色合いのブラシが、素敵な佇まいで用意されていました。


マカロンザブトン(I.S.U.house上柳

千鳥ブラシ(宇野刷毛ブラシ製作所)

玄関を上がった真正面に目を向けると竹を模した錫の花入が火灯窓の中で真っ直ぐに生えているように置かれている、その姿があまりに自然で、まるで以前からそこにあったかのようだ。
お茶をいただく前に客人として茶室という清浄なる空間に入る準備をする。
スマホはもちろん、お道具を傷めたりしないため時計やアクセサリーなどを外しておく、そして呼吸を整えるべく応接に通される。


花入れ(錫光

木目込みトレイ(柿沼人形)

椅子とテーブルのモダンな佇まい、まず目に入ってきたのは金箔の砂子を使った壁掛け。柔らかで深みのある和紙の黒に一筋の金砂子の線が引かれ渋く輝く様はまさに遠州流の醍醐味「綺麗さび」を大いに感じる。そして部屋の中央には銀器の花器が置かれモダンな空間をぐっと引き締めていた。
応接では「香煎(こうせん)」と呼ばれる飲み物で口の中を清め、お茶会の亭主・小堀宗翔さんから「今日の香煎は、りんごの花の塩漬けにお湯を注いだものです。りんごの花も召し上がれますよ」とご説明をいただく。


壁掛け(湯島アート

紙のうつわ 北斎猪口(高橋工房

花器(森銀器

感じとる心

いよいよお茶室に向かう。
部屋に入る前には襖の前で一礼。
茶室では亭主が心を込めて設たお道具の拝見から始まる、お床に掛けられたお軸にはお家元の手による「千里同風」の書と季節の花、琵琶棚には漆の盆に乗せられた藤細工のディフューザーいうモダンな取り合わせが面白い。



Rattan Diffuser(木内籐材工芸)

書の意は千里離れたところにいても同じ風が吹く、この地が平和であれば世の平和につながることを表している。今回はこの茶室で感じた空気をたくさんの人に千里先まで届けて欲しいという気持ちを込めてかけられたそう。工芸の新風が遠くまで吹きわたり、美しさを感じる心が通じる、そのように受け取れば良いだろうか、亭主の心づくしに自由に思いを馳せることが大事なのだ。
季節は10月、この時期は風炉(ふろ)を据えて釜をかけ、冬の炉の季節は茶室に炉を切って釜がかけられます。シンプルな鉄釜の脇の棚板には作家ものの漆に象嵌(ぞうがん)のお棗(なつめ)、その下には秋草を感じさせる銀細工の草紋水差し。
主張しすぎない美しさがそこにありました。

ただ一服のお茶をいただく為
しかし、そこには日本の美意識や心配りが詰まっていると言われています。
今回の体験で私たちはその大切なものに触れることができました。
今回拝見してきた美しき工芸も元々は普通の暮らしの中から生まれたものです。
使う人の意識によってこれを美意識の世界へと昇華することができる。
そんな工芸の魅力と文化を思い出させてくれた体験でした。

今回使用された手仕事の数々はこちらからご覧ください。


掛け軸(高橋工房

錫豆皿(錫光

丸盆(アトリエ鍛

棗(なつめ)(森銀器

ふくさ(富田染工芸

帯締め(道明