西武渋谷店で2020年9月11日から11月23日まで開催された、東京手仕事展「あたらしい暮らし、美しい暮らし」。
暮らしを彩る東京の「イイモノ」が集められたその一角では“美しい伝統工芸を体験しよう!”をテーマとして、職人が講師を務めるいくつかのワークショップが実施されました。その中から、江戸時代から続く水門商店の5代目当主・水門俊裕さんが教えてくれる江戸押絵羽子板の講座について、お伝えします。
職人の手になる、数々の名品が並ぶ特別展示会場
ブロマイドとして愛されてきた江戸押絵羽子板
羽子板というと、絵や版画が施され、羽根つきをする板を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。そんなイメージとは裏腹に、「江戸押絵羽子板」はとても立体的。わたを入れ、絹の布で包んだ細かなパーツを重ねた豪華な羽子板を、歳の市や羽子板市などで見かけた方もいらっしゃるかもしれません。
江戸押絵羽子板は、女の子の健やかな成長を願って求められるほか、江戸時代には歌舞伎役者のブロマイドとしても製作されていた伝統から、歌舞伎や日本舞踊などに関心が高い方が購入されることも多いそうです。
今回体験できるのは、2021年の干支・丑をモチーフとした2柄。梅と松に挟まれた丑の鞍を竹に変えれば、松竹梅が揃うめでたい羽子板になるのだと、水門さんは笑います。
グループで参加した、2021は年女という方たちは、それぞれに好みの柄を選んでいました。また、異なる柄を選んでいる、男性と女性のふたり連れの姿も。
こんな風に並べて飾るのも、きっと素敵ですね。
凛々しい月見の丑と、愛らしい松竹梅の丑
職人の技が光る鏝さばき
柄を選んだら、羽子板を作り始めます。まずは板に糊をつけ、背景の丘と空を貼りつけて、なんとそのまま、お尻の下へ。お尻に敷くとよい塩梅に圧がかかり、しっかりと密着するそうです。
縁は薄く、中は多めに、まんべんなく糊を塗る
続いて、あらかじめクッション材が貼られた台紙に糊を付け、布でくるみながら、熱した鏝(こて)で接着します。
左手で台紙の縁を押さえ、右手の鏝で布の端をひっぱってと、説明しながらすいすい進める水門さんの手さばきを見ると、簡単にできるように思われますが、実際にはこれが、なかなか難しい。引っ張りすぎてのりしろが足りなくなったり、むらになったりと、悪戦苦闘の連続です。よれたところを水門さんに直してもらいながら、なんとか丑と俵をくるみ終えました。
見ていて気持ち良い、よどみのない職人の手さばき
羽子板の形ができていく喜び
続いて、丑の鞍の布を切り、紐をかけて、下絵を見ながら丑に乗せていきます。
位置をあわせながら、糊で貼っていく
綱を巻き、ピンセットで目をつけると、現れたのはまるで犬のような顔立ち。これで無事に、干支の丑が完成するのかと、一瞬、不安がよぎります。
くりっとお茶目な目元に
しかし、角を付け、鼻とひづめを塗るうちに、きりりとした丑らしい表情が表れました。お尻の下から引っ張り出した羽子板には、煌々と輝くお月さまを貼りつけます。
鼻とひづめは、白い絵の具で着色する
できあがった丑を羽子板に貼って、完成です。持ち手と鞍が花柄のためか、見本の羽子板よりも華やかな印象となりました。
丑の脚と丘を見ながら、位置を決める
歌舞伎役者の羽子板とともに記念撮影
日本の文化に出会う
帰宅後、さっそく羽子板を飾りました。
セットの台に立てかけた羽子板には風格があり、この一角からはきりっと引き締まった気配が漂います。
こうなると、十二支すべてをそろえたくなるのが、人情というもの。暮れの江戸押絵羽子板づくりを、毎年恒例の行事にしたくなってしまいました。
金運も運んでくれそうな佇まいの丑
各地で開催されている工芸品の展示やワークショップは、何気なく見過ごしていた日本の伝統そのものに触れ、その真髄を知ることができる、きっかけのひとつだと、今回の体験を通して知ることができました。
機会があれば、ぜひみなさんも、職人とその手仕事に出会いにきてくださいね。