TOKYO Teshigoto
2021.03.26

【組紐ワークショップ】 ~東京手仕事展2021

職人体験ワークショップ

マークスタイルトーキョーGINZA SIX店で、2021年2月19日(金)から3月7日(日)まで開催された 『東京手仕事展2021』。その一角で開催された、職人気分が味わえるワークショップのひとつが“組紐ブレスレット”づくりです。

数多くの手仕事が展示された、マークスタイルトーキョーGINZA SIX店

「無心になれる」「頭がからっぽになって、すっきりした」
体験した人の多くがそんな感想をもらすという、組紐の手組体験をレポートします。

教えてくれるのは、1652年 (承応元年)の創業以来、上野池之端に店を構える組紐の老舗『有職組紐 道明』で企画からデザイン、制作、販売、広報に至るまでの幅広い業務をマルチにこなす山口さん。組紐職人だった祖父、そして父の影響でこの世界に入ったという彼は、組紐教室の専任講師としても活躍しており「うちの教え方はスパルタですよ」と笑います。

柔らかな物腰が魅力的な山口さん。

今回体験したのは、2筋の地色の連なりと2列づつ並ぶ3色の連なりの組み合わせが楽しめる“奈良組”。飛鳥時代から奈良時代に中国から伝来した組み方で、佩飾(はいしょく)という腰から下げる飾りや几褥(きじょく)というテーブルセンターの縁飾りなどに使われ、正倉院の宝物庫にも数多く収蔵されています。

ボリューム感のある“奈良組”のブレスレット

『道明』が開催する組紐体験の特長は、糸を巻いた“玉”を数多く使うこと。観光地での組紐体験で使うのは、4玉、8玉程度のことが多いのですが、『道明』の体験で使うのは、12玉。玉の数が多い方が紐の太さや目の細かさが増すため、より存在感のある紐が組みあがります。

使う絹の糸はすべて『道明』の職人が手染めしたもの。出来上がりのイメージがしやすいよう、あらかじめ少しだけ組んである糸のセットから好みのものを選び、丸台という組紐の台に配置してもらいます。椅子に座って組める丸台は『道明』の特注品。普通は床に座って組むそうです。

丸台の上面は、糸が引っ掛からないようにつるつるに磨かれていことから“鏡”と呼ばれます。組まれた紐がその人の身体のゆがみ、癖、そして心の中までも映しだすことにも、鏡といわれる所以があるそう。楽しくうきうきしながら組めばしっかりとした紐、悩みながら組むとねじれた紐になるといいます。

台には12本の糸が、3本を一組とした四葉のクローバーのような形で置かれてます。薄い色6本は“地色”、濃い色の2本づつ3組は“柄色”と呼ばれ、今回の“奈良組”では同じ色同士は必ず隣り合うように置くのが鉄則。手前の糸と向こうの糸を入れ替え、同じ色の糸の隣に置くことで組みあがっていきます。

一筋だけはぐれている色の糸は、次に同じ色の糸の隣に戻す

自分から見て中央に近いところを内側、両端に近いところを外側と呼びます。手に取れるのは最も内側にある糸だけで、かつ中央よりも左の糸は右手、右の糸は左手で、同時に取って動かすという決まりがあります。そうすると、右手が取れるのは左奥か左手前にある内側の糸、そして左手が取れるのは右手前か右奥にある内側の糸ということになります。

手に取った糸は、ぐるりと回して反対の外側へ動かします。そして動かした手の位置を変えず、手前にある右手で左の内側の糸を、奥にある左手で右の内側の糸をすくい、今度は逆時計回りに左右それぞれの外側に動かしていく。その繰り返しで、紐がずんずんと組まれるのです。

台に置かれた糸には撚りがかけられています。撚りをかけると組目がふっくらと立ち上がってつやが出る上に、伸縮性も増すためです。しかし糸を動かすうちに撚りがゆるみ、糸が台に平べったく広がってきます。そのまま組むと組目がぼわんと緩んで締まりがない印象になるため、糸を巻いた玉を回すようにして撚りをかけなおします。

一玉づつ叩くように回転させて撚りをかけていく

「糸がきらん、と光る瞬間があるのがわかりますか? それがほどよく撚りがかかった合図です」と山口さん。撚りをかけながら目を凝らすのですが、素人目には見分けるのが難しく、最後までわからなかったのが残念でした。

玉に巻かれた糸の長さを出す“玉おろし”は山口さんがやってくれました。組んでいる手の動きを妨げないよう、餅つきの合いの手を入れるように絶妙なタイミングで行われる玉おろしもまた、職人さんのすごさを感じられるポイント。
ささやかなサインを見逃さない眼力や鮮やかな手さばきに、感嘆することしきりです。

地色に別の色が入ったり三色の並びがずれたりするのは、組違えをしているというサイン。そんな時には、組んだ紐がふくらんだりへこんだりしているので、目で確認するだけではなく、手で触れてもわかります。そうやって職人さんの感覚に少しだけ近づけるのも、嬉しい体験。

組みあがった紐は、台の下に降りていく

内から外に2本の糸を持っていくのを6回繰り返すと12本の糸すべてが動き、2列づつ3色が並ぶ1節の模様ができあがります。それを2節分、12回繰り返す頃には糸の撚りが緩んでいるので、玉を転がして撚りを戻します。

「手を止めずに、一定のリズムで組んでいくのも大事ですよ」
慣れた頃合を見て、山口さんが教えてくれます。
「手を止めて休むと、次に組み始めたときに目の揃い方がそれまでとは異なることがあります。だから均一に組みたかったら手を止めないで、同じリズムで、同じ目線で、同じ姿勢で、極端にいえば同じ気持ちで組むと、一番きれいに組めるんです」

慣れないうちはどの糸を手に取るのか、どちらの向きに動かしてどこに置くのかに戸惑い、いちいち手が止まります。しかし段々と左右を意識し、回数をカウントしていた頭が空っぽになり、自然と手が動くようになっていく。そうして生まれた心地よいリズムに身をゆだねることができるようになった頃に、ちょうどよい長さの紐が組みあがり、名残惜しさを感じながら丸台の前を離れました。

組みあがったところで端を結び、切り離された組紐

「最初の方に組んだ部分と、最後の方に組んだ部分との硬さを比べてみてください」
山口さんに声をかけられ、組んだ紐の両端を曲げてみました。

確かに組み始めは柔らかく、組み終わりの方とは明らかに硬さが違います。手早くテンポよく組むと硬くなり、慎重にゆっくり組むと柔らかくなるそう。迷いながら組んでいた最初の方と比べ、慣れてきたあたりからは比較的目が揃ってきていて、丸台がその人を映す鏡だということを改めて納得する思いでした。

組紐を体験したドイツの外科医に、手術の縫合は君に頼もうかと言われた器用さで、山口さんが組紐に金具を取り付け、ブレスレットに仕上げてくれます。                                                                                                                             若苗色の地に紅色や薄藤色の組紐は、萌えいずる春のイメージ。銀鼠色の地に藍色や瑠璃色をあわせた組紐は、初夏や晩冬を思わせます。柿色や本紫色を使った組紐は秋の色で、3本を重ねるとそこに四季があらわれました。

見本の組紐、一緒に体験した方の組紐とともに記念撮影を

“柄置き(がらおき)”という色糸の配置を入れ替えたり組方を変えたりすることで、同じ色糸の組み合わせ同士でもまったく異なる柄が浮かび上がるのが、組紐の魅力です。山口さんらは目に映る風景やものごと、時には古今東西の絵画なども参照しながら、一本の組紐で物語を紡ぐようにデザインをするといいます。細い線の中に豊かな世界を描けることが、組紐の醍醐味でもあるのでしょう。

組めなかった方はいないというほどに間口は広くありながら、無限の奥深さを感じさせられた組紐。頭が空っぽになり、無心になれるその時間はとても心地よくて、もっともっとやってみたくなってしまいました。


自分の作った組紐を常に身につけられるのが嬉しい

東京にあるDOMYO神楽坂ギャラリーでは 『初めての組紐体験』ワークショップが定期的に開催されています。更に深めたい方のためには、自分のペースで予約して好きなだけ組紐を楽しめる神楽坂教室の“別科”や、全国各地で開講されて受講歴40年以上、御歳80歳をこえるご婦人を筆頭に、職人や職人と並ぶほどの腕を持つ生徒さんを輩出しているという『道明古式糸組法教処』という教室も。

楽しみながら組み方を習っているうちに職人になってしまうという未来だって、もしかしたら夢ではないかもしれません。興味を持たれたら、まずはぜひ体験に申し込んでみてくださいね。