TOKYO Teshigoto
2019.07.01

思いを形にし、つなぐ人。

職人インタビュー

下町「森下」にあるジュエリー工房。

下町の風情が残る江東区、深川エリア。都営大江戸線・都営新宿線「森下」駅を降り、少々歩くと「高橋のらくろード」商店街の入口に辿り着く。商店街のあちこちには、“のらくろ”の看板やぬいぐるみが飾られている。“のらくろ”の作者、田河水泡は幼年期から青年期までを江東区で過ごしたといい、商店街の先にある森下文化センターには「田河水泡・のらくろ館」がある。そこまでの道のりが「高橋のらくろード」となっている。
ジュエリーサショウは、「高橋のらくろード」の中程にある。通りに面した方は店舗、その奥の工房ではジュエリーサショウの三代目・佐生真一氏が忙しく手を動かしていた。


「高橋のらくろード」商店街の中程に、ジュエリーサショウの店舗兼工房がある。

引き継いだ伝統と新しい技を融合。

ジュエリーサショウの創業は、1920(大正9)年。初代は真一氏の祖父にあたる。「祖父の時代は、辰巳芸者の簪や帯留なんかのオーダーに応えていたようです」。粋を身上とする顧客の審美眼に応える仕事には、さぞかし高い技術そして意匠性が求められたことだろう。「本式の簪を作れるところはもう少ないので、今でも噂を聞きつけて簪のオーダーが入ってきたりするんです」。オーダーメイドのジュエリー制作は、まず顧客との深い対話から始まる。どんなシーンで身に付けるのか。どんなイメージがお好みなのか。じっくりと話しをした後、真一氏の言葉で言うと「ニュートラルな気持ち」になって、ジュエリー制作に向かう。見せてくれたのは、趣味の仕舞(しぶ)で身に付けたいと、帯留をオーダーしてきたお客様のイメージを描き起こしたスケッチ。こうしたスケッチをもとに、ワックス(ロウ)で原型を作っていく。お客様には、このワックスの原型を確認していただき、完成イメージを共有する。ワックスの技術は、若い頃に真一氏が外の世界で掴んだもの。ワックス原型師の師匠のもと学んだ時間が、自分に道具と手を与えてくれたと、真一氏は言う。


帯留のオーダーを受けてお客様のイメージをデザイナーとともにスケッチに落とし込んだもの。


ジュエリーサショウ三代目・佐生真一氏(さしょう・しんいち)

「いかし」「つなぐ」を大切にする、リメイク。

ジュエリーサショウには、リメイクの依頼が全国から寄せられる。珍しいのは、リメイクする品物の地金を生かすことだ。地金を買い取り、リメイクには新しい地金を使うお店が多い中で、持ち込まれた品物を「いかし」思い出を「つなぐ」ことにこだわる。地金から貴石を外し、バーナーで熱し不純物を飛ばして純度を上げていく。高温で融け、小さな太陽のように発光する地金に、制作するものによっては金、プラチナなどを加えて合金することもある。鋳金、鍛金、彫金まで行えることは表現の幅になり、依頼者を惹き付けることになる。


手がけたリメイクジュエリー、オリジナルジュエリーの写真資料。こうした写真を見ながら、お客様とイメージを共有することも多い。


持ち込まれた品物は貴石を外し、地金は極力そのまま引き継ぐ。写真の右手に映る緑色のものがワックスで制作したリメイク後の造形。


「チョコザラ」と呼ぶ皿の上で地金が融け、太陽のように発光する。この作業にはサングラスを付けて臨む。

舞台宝飾も手がけた。そして次は。

ある出逢いから、演劇の舞台で使うティアラを制作した経験もある。戴冠式の絵画を参照しながら、本物さながらのティアラを作っていた時間は「夢のようだった」と真一氏は回想する。舞台美術のプロ集団とともに「リアル」を追求したのも、普段は一人で制作する真一氏にとって刺激的だった。そして様々な経験を積んできた真一氏が、いま取り組んでいることがある。それは、敷居が高いと思われがちな伝統工芸を身近に感じてもらえるような、オリジナルのジュエリー制作。その一つが、「ベジタブル_パッド」だ。レンコンやオクラの断面を意匠にした、ピアスやピンブローチだが、真ん中には動物の肉球(パッド)らしきものがある。肉球を発見した時に、思わずクスッと笑ってしまう。そんな作り手の遊び心が伝わってくるジュエリーには、冷たいはずの金属に温かい血が通う。身に付ける人への温かな思いが、そこにあるからに違いない。

ティアラの装飾部分を形にしたワックス原型。


伝統に培われた技を使いながら、気軽に使えるジュエリーをつくる。


レンコンをモチーフに選んだ理由は、昔から「先を見通す」と言って験担ぎの要素があるから。肉球は、思わず頬がゆるむかわいらしい形に癒やされて欲しいから。また「一歩一歩確実に歩いていこう」といった思いもこめられている。


ジュエリーサショウ/東京都江東区高橋14-12 TEL.03-3632-5233 営業時間(10:00〜18:30) 定休日(木曜、第2・4日曜)