TOKYO Teshigoto

基本の染めだが、奥の深い無地染。

東京無地染は、1991(平成3)年に東京都に指定された伝統工芸品。また2017(平成29)年には、国の伝統的工芸品にも指定されている。無地染の歴史は、仏教伝来まで遡る。仏教伝来とともに、藍、紅花が伝わるとそれを用いた無地染(浸染)が起こる。奈良、平安時代には大和民族独特の染め技術が確立。鎌倉時代には絹織物と、草木染めに必要な灰汁、鉄媒染、酢が発達し浸染も進化する。そして江戸時代には「江戸紫に京鹿の子」と言われるほど、紫根で染めた「江戸紫」が江戸っ子たちにもてはやされた。無地染は一反の白生地を顧客の好みに染めるという最も基本的な染めではあるが、とはいえ顧客が求める色のバリエーションは幅広い。東京無地染の産地組合である「東京都染色工業組合」が作成する色見本帳には、百数十通りの色見本が掲載されている。これだけの色数を、赤、黄、青、緑、黒の5つの染料でピタリと色合わせし染めて見せるのだから、“最も基本的な染色”と言っても奥が深い。 近藤染工は、1951(昭和26)年創業の無地染の工房。熟練の染色技法を用いて、反物以外の染色にも挑戦する。近藤染工の二代目・近藤良治氏に、染めの工程を見せていただいた。

近藤染工の二代目・近藤良治(こんどう・よしはる)氏。工房の染色機からは、湯気が立ち上る。

『イロかご』の竹ひごを染める。

この日、近藤氏が染めて見せてくれたのは、竹ひご。染めた竹ひごは竹細工職人が編み、東京手仕事の開発商品『イロかご』となる。「反物は白生地だけど、竹には薄い色がついている。白生地とは色の載り具合が違うので、その辺が難しい」と近藤氏。『イロかご』には赤、青、緑の竹ひごが使われているが、赤は特に難しいそうだ。「赤は濁りのない色。色見本帳を見てもこの赤は朱色に近いとか、微妙な違いがある。白生地を染める時でも赤系統は特に見本色を大事にするくらいだから、竹となると、もっと慎重になる」。

赤、青、緑に染めた竹ひごを使って編まれた『イロかご』。

竹ひごには薄い色があるため、色見本にピタリと合うよう染めるのは大変難しい。

「特に赤を染めるのは難しい」と、様々な色見本帳を見ながら説明してくださった。

蓄積した数値と勘、あとは慎重さ。

赤を染めるには、赤と黄の2色の染料を使う。パウダー状の染料を銀色のサジですくい、それぞれ柄杓にとった水に溶かす。量は、染める色ごとに細かくデータが記録されているが、何を染めるのか、あるいはその日の湿度や気温によっても微妙に変わる。経験をもとに微妙に染料の量を修正しつつ、染める段階に移れば臆病なくらい慎重に、少しずつ投じていく。入れる染料の順番も大事で、まず赤を入れる。そして染まり具合を、時々竹ひごを引き上げながら確認し、少しまた染料を足して調整していく。「水分を含んでいるのと乾いた時では色が違って見える。白生地の場合はその場で水分を飛ばしながら仕上がりを確認するけど、竹ひごは乾くのに時間が掛かるのでできない。経験を頼りに染めるしかない」。

パウダー状の染料を柄杓に溶かす。

まず赤の染料を投入する。次に黄の染料を入れる。同じ量の染料でも入れる順番が逆になると、うまく染まらない。

時々竹ひごを引き上げて染まり具合を確認しながら、慎重に染めていく。

難しい素材に難しい色を、ピタリ染める。

湯気の上がる工房で黙々と作業を続けたのち、近藤氏は「ここだ」という様子で赤く染まる竹ひごを、色止めのために用意した器に移す。その後、天日で乾燥させた竹ひごを『イロかご』と合わせて見ると、見事に色はピタリと合っていた。

色止めをした後、乾燥させる。水分を飛ばした状態の竹ひごと『イロかご』を見比べてみると、色見本通りに染まっていた。

近藤染工では、学生を対象とした見学や一般の方も参加できる染色体験を用意している。詳しくは近藤染工のWEBサイトで確認を。

株式会社近藤染工
東京都江東区清澄2-15-3
TEL.03-3641-2135
営業時間(10:00〜17:00)
工房の隣には、店舗も併設している。