TOKYO Teshigoto
2017.07.18

江戸の光を、きらり復興。

職人インタビュー

唐紙師 唐源三代目 小泉幸雄さん(こいずみ・ゆきお)
20歳から父親のもと家業に従事。江戸の名工と言われた初代・小泉七五郎から数えて五代目の唐紙師。唐源としては三代目。国・東京都指定の伝統工芸士に認定。東京都優秀技能者「東京マイスター」受賞。

今も、日々修行。

両掌で頬を包み、すっと撫で下ろす。下ろした手は和紙の上を、すーっすーっすーっと滑り、版木に乗せた絵の具を写し取る。この道に入って50年という小泉幸雄さんは、唐紙師。木版手摺りで加飾した和紙は、襖や屏風を始めとする様々なものに使われ暮らしの彩りとなっていく。先ほどの、頬を撫でる仕草のことをうかがうと「癖なのかって? そうじゃない。我々の技術以外にも江戸からかみで砂子師っていますけど、砂子を蒔いた後、和紙で押さえるんですよ。そういう時、顔をすっとやっていますね。やるとやらないじゃ、全然違いますよ」。わずかな皮脂を手につけることで、泳ぐように滑らかな動きで和紙に美しい文様を摺り取ることができる。摺りたての和紙を見せていただくと、最初はわずかな光だったのが、水分が抜け乾くとともに文様が光を強くして表れてきた。「雲母(きら)って半透明でしょ。だから摺りたては分からない。乾いてくると、あららってことは我々でもあるんですよ」と、雲母摺りの難しさを語る小泉さん。絵の具は顔料、布海苔(ふのり)、こんにゃく糊を水の中で溶き混ぜ合わせるが、この水の量のバランスが一番難しいのだそう。「4年前に他界した親父とよく言っていたけど、バランスがピタッとくることなんてなかなか難しいんですよ。いくつになっても日々修行ですよ」。

乾くに従い、七宝の柄が浮き立ってくる。

版木は小泉さん自ら彫ることもある。連続模様を摺る際に柄が合わせやすいようにと、柄の彫り方を工夫するという。

和紙に胡粉を平刷毛で具引き。雲母を混ぜた絵の具を篩(ふるい)の面に塗り、版木の上に均質にのせていく。版木の上に和紙を置き、(両掌をすっと頬に当て皮脂を付けてから)優しく撫でて文様を写しとっていく。

消失した版木を、復刻。

小泉さんは20歳で、この道に入った。この道というのは、襖紙加工の仕事だ。戦後急造した復興住宅や高度経済成長の建築増により、襖紙も大量生産期へと移行。襖紙加工業もこの需要に伴い、手加工の唐紙からマシーンプリント・シルクスクリーン製が増大する。今は伝統工芸の仕事は全体の8割くらいになったそうだが、殆ど量産品、という時期もあったそうだ。そもそも唐紙は京都で始まり江戸に伝わり、江戸独自の「江戸からかみ」に発展した。江戸好みの意匠を刻んだ「享保干型」と呼ばれる版木もたくさん作られたが、版木の殆どは関東大震災と東京大空襲で消失する。小泉家は、江戸時代から続く唐紙師の家系。先代、哲さんも戦後、自ら版木を彫り地道に復刻作業を行っていたという。そして平成に入って、和紙問屋の東京松屋が版元となり「江戸からかみ」復興の大きな動きが起こる。戦後復刻した版木の数々と、その後発見された江戸時代の約240版の版木が貴重な道具だ。こうした活動が功を奏し、平成17年の長崎出島の第2期オランダ商館復元に唐紙が使用される。版元の東京松屋からの依頼で、1万枚にも及ぶ唐紙が東京の唐紙師によって摺られた。「私も見に行ったんですけどね、ああ、いい仕事をさせてもらったと。建築物の中に貼られると、全然違うんですよ。不思議なもので」。仕事の醍醐味、面白さはこの瞬間にあるのだと。小泉さんの側では、雅行さんと哲推(あきお)さんの息子二人が忙しく働く。「彼らも上達してきて頼もしい限りです」と太鼓判を押す。技は確かに、手渡しされている。

唐紙と、出会う場所。

「江戸からかみ」の復興の中心的役割を果たした東京松屋では、唐紙の素晴らしさを多くの人に伝えるためのショールームを東京・浅草・稲荷町に構えている。1階は唐紙を使ったご祝儀袋やランチョンマット、ポチ袋などが並ぶショップ。2階、3階には唐紙を貼った襖、屏風のサンプルが並ぶ。商品企画室の中本さんに話をうかがうと「見本帳だとつかみづらいことも、実際の襖や屏風の大きさで見ていただくと確認できる。そのためのショールームを作っています」。実物大の襖パネル見本を引き出すと、角度を変えて窓から入る光を当てたり外したり。すると唐紙の文様が濃く見えたり、地色に同化したり。唐紙の奥深さを再認識する。「2階の天井に貼った、玉萩の唐紙は小泉さんに摺っていただいたものなんですよ」。この他、東京松屋では「江戸からかみ」を使ったあんどん型の照明器具を販売している。この唐紙も小泉さんの仕事。ここへ足を運べば、江戸からかみに出会え、小泉さんの仕事に出会える。

2階ショールームでは実物大のパネルに貼った状態で唐紙を確認できる。

「江戸からかみのあんどん」。文様、芯材の仕上げを選ぶことができる。

1階は30アイテム以上の和紙小物が買えるショップになっている。

東京松屋ショールーム・ショップ 東京都台東区東上野6-1-3
営業時間 9:00~17:00(日曜・祭日定休日)